はじめに
日本でも2011年7月24日(一部地域を除く)に正式導入された地デジ放送の方式についてです。
地上デジタルテレビ放送(地デジ)は、各国・地域で異なる方式が採用されています。本記事では、世界の主要な地デジ方式について、技術的な特徴から採用国まで詳しく解説します。
世界の主要な地デジ方式
現在、世界で採用されている主な地上デジタル放送方式は以下の4つです:
- ATSC(Advanced Television Systems Committee)
- ISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)
- DVB-T(Digital Video Broadcasting-Terrestrial)
- DTMB(Digital Terrestrial Multimedia Broadcasting)
北米で採用されているATSCは8VSB変調方式を採用し、高いデータレートと単一周波数ネットワーク(SFN)への対応を特徴としています。日本発のISDB-Tは、OFDM方式とセグメント構造による階層伝送を実装し、移動体受信性能に優れています。欧州標準のDVB-Tは、柔軟な変調パラメータ設定とロバストな誤り訂正能力を持ち、世界的な普及を実現しました。中国独自規格のDTMBは、TDS-OFDMを採用し、ATSCとDVB-Tの技術的利点を統合した設計となっています。また、これら各方式は地理的条件や技術要件に応じて最適化された伝送特性を備えています。
地デジ方式の国際比較表
方式 | 主な採用国・地域 | 映像符号化形式 | 変調方式 |
---|---|---|---|
ATSC | アメリカ、カナダ、韓国 | MPEG-2/H.264 | 8VSB |
ISDB-T | 日本、ブラジル、ペルー | MPEG-2/H.264 | OFDM |
DVB-T | 欧州諸国、オーストラリア、タイ | MPEG-2/H.264 | COFDM |
DTMB | 中国、香港、マカオ | AVS+/H.264 | TDS-OFDM |
ATSCの特徴と技術仕様
ATSCは北米を中心に採用されている放送方式です。主な特徴として:
- 変調方式に8VSBを採用
- 高画質・高音質を重視
- SFN(単一周波数ネットワーク)への対応が限定的
- 移動体受信性能は他方式と比較して劣る
なお、現在はATSC 3.0への移行が進められており、4K放送やモバイル受信への対応が強化されています。
ISDB-Tの特徴と技術仕様
日本で開発されたISDB-Tは、以下のような特徴を持ちます。
- 13セグメント構成による柔軟な帯域利用
- ワンセグ放送による携帯端末向けサービス
- 高い耐干渉性能
- 緊急警報放送システムの搭載
特に移動体受信性能に優れており、車載テレビでの視聴や携帯端末での受信に強みを持ちます。
DVB-Tの特徴と技術仕様
欧州で開発されたDVB-Tは、世界で最も広く採用されている方式です。
- COFDM変調による高い伝送効率
- マルチパス耐性に優れる
- SFNネットワークの構築が容易
- 様々な伝送モードに対応
現在は第2世代のDVB-T2が普及しており、より高効率な伝送が可能になっています。
DTMBの特徴と技術仕様
中国独自の規格であるDTMBは、以下の特徴を持ちます。
- TDS-OFDM変調方式の採用
- 高い周波数利用効率
- 固定受信と移動受信の両立
- 中国独自の映像圧縮規格AVS+に対応
各方式の映像符号化形式の詳細
映像符号化形式は、デジタル放送の画質と帯域効率に直接影響を与える重要な技術要素です。現在採用されている主な方式について、詳しく解説します。
MPEG-2 Video(H.262)
- 圧縮率:約40~50:1
- ビットレート:HDで15-19Mbps程度
- 特徴:
- 1994年に規格化された基本的な圧縮方式
- エンコード/デコードの処理負荷が比較的軽い
- 機器の低コスト化が容易
- 放送用途での実績が豊富
- 画質と帯域のバランスが良好
H.264/MPEG-4 AVC
- 圧縮率:約60~70:1
- ビットレート:HDで6-8Mbps程度
- 特徴:
- MPEG-2と比較して約2倍の圧縮効率
- より高度なモーション予測
- 可変ブロックサイズ対応
- デインターレース処理の改善
- 4:2:0、4:2:2、4:4:4など様々なカラーフォーマットに対応
AVS+(Audio Video Coding Standard)
- 圧縮率:H.264に近い(約60:1)
- ビットレート:HDで6-9Mbps程度
- 特徴:
- 中国独自の映像圧縮規格
- 特許ライセンス料が比較的安価
- H.264に匹敵する圧縮効率
- 中国国内での普及を推進
- モバイル機器向けの最適化
HEVC/H.265
- 圧縮率:約100:1以上
- ビットレート:4K解像度で15-20Mbps程度
- 特徴:
- H.264の後継規格
- 4K/8K放送に最適化
- より柔軟なブロックサイズ構造
- 高度な予測・変換coding tools
- 次世代放送規格での採用が進む
映像符号化方式の選択基準
放送局が映像符号化方式を選択する際の主な判断基準について
必要画質
- SDかHDか4Kか
- 要求される主観画質レベル
- スポーツなど動きの多い映像への対応
伝送帯域
- 割り当て周波数帯域
- 多重化する番組数
- データ放送との併用
運用コスト
- エンコーダー/デコーダーの価格
- ライセンス料
- 保守・運用費用
将来性
- 高解像度化への対応
- 新規格への移行計画
- 受信機の普及状況
これらの映像符号化技術は、放送方式の進化とともに発展を続けており、より高画質・高効率な伝送を実現するための研究開発が続けられています。
変調方式の比較
各方式で採用されている変調方式には、それぞれ特徴があります。
8VSB(ATSC)
- 単一搬送波方式
- 高いC/N比での運用が必要
- 比較的シンプルな受信機構成
OFDM/COFDM(ISDB-T/DVB-T)
- マルチキャリア方式
- マルチパス耐性に優れる
- SFN構築に適している
TDS-OFDM(DTMB)
- 時分割同期方式を採用
- 高い周波数利用効率
- 固定・移動受信に対応
まとめ
地上デジタル放送方式は、各国・地域の地理的特性や要求仕様に応じて選択されています。特に:
- 北米:高画質重視のATSC
- 日本・南米:移動体受信に強いISDB-T
- 欧州:効率的なネットワーク構築が可能なDVB-T
- 中国:独自規格のDTMB
という形で棲み分けがなされています。今後は4K/8K放送への対応や、より効率的な周波数利用に向けた技術革新が進むことが予想されます。
この記事を通じて、世界の地デジ放送方式の違いと特徴について理解を深めていただければ幸いです。
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