はじめに
放送業界でのリモートカメラの活用は、この数年で飛躍的に進化しています。特にコロナ禍以降、無人撮影のニーズが高まり、各メーカーのリモートカメラシステムは重要性を増しています。本記事では、主要メーカーのプロトコルを詳しく解説し、実務での選定に役立つ情報をお届けします。
リモートカメラプロトコルの基礎知識(VISCAプロトコル)
VISCAプロトコルとは
VISCAプロトコルは、SONYが開発した業界標準のカメラコントロールプロトコルです。Pan(水平方向の回転)、Tilt(垂直方向の回転)、Zoom操作などの基本的なカメラコントロールを実現します。
主な特徴:
- シリアル通信(RS-422/RS-232C)による制御
- デイジーチェーン接続で最大7台まで制御可能
- コマンド体系が整理されており、拡張性が高い
通信方式:調歩同期式、全二重
データ長:8ビット
スタートビット:1ビット
ストップビット:1ビット
パリティ:なし
ボーレート:9600/38400bps引用元:SONYカラービデオカメラ,
https://www.sony.net/Products/CameraSystem/CA/BRC_X400_SRG_X400/Technical_Document/E042100011.pdf
各社対応状況
現在、多くのメーカーがVISCAプロトコルに対応しています:
- SONY:完全な互換性を持つ独自実装
- Panasonic:VISCAに加え、独自プロトコルも併用
- Canon:VISCA対応 *標準プロトコルがVISCAコマンドと一致
- JVC:VISCA over IP対応
- OBSBOT:民生機でもVISCA対応を実現
VISCAとVISCA Over IPの主な違い
VISCA Over IPは:
- VISCAプロトコルをイーサネットネットワーク上で使用できるように拡張したもの
- 標準的なIPネットワークインフラを利用
- 理論上無制限のカメラ数を制御可能
- ネットワークの範囲内であれば距離制限なし
- より高速な通信が可能(ネットワーク帯域による)
- リモート制御がより柔軟に可能
- 既存のネットワークインフラを活用できるためコスト効率が良い
主なメリットは、VISCA Over IPの方が:
- より多くのカメラを制御可能
- 距離の制限が少ない
- 既存のネットワークインフラを使用可能
- より柔軟なシステム構成が可能
逆に、シリアル通信はIPと比べて現場での設定項目が少ないため、重宝されています。
それぞれ用途に合わせて選択することが大切です。
リモートカメラプロトコルの基礎知識(XCプロトコル)
XCプロトコルは、ビデオカメラやスタジオカメラのリモートコントロールに使用される通信プロトコルの一つです。主にCanonのリモートカメラや業務用ビデオカメラで採用されています。
XCプロトコルの特徴
- RS-422インターフェースを使用
- Canonのプロフェッショナルビデオカメラで採用
- カメラの各種設定や操作をリモートで制御可能
- 複数のカメラを同時に制御できるマルチカメラ環境に対応
XCプロトコルは、RS-422シリアル通信を介してカメラとコントロールデバイス間で情報をやり取りします。このプロトコルを使用することで、カメラのパン、チルト、ズーム、フォーカス、ホワイトバランス、シャッター速度、アイリス、ゲインなどの設定を遠隔で制御することができます。
また、XCプロトコルは複数のカメラを同時に制御できるマルチカメラ環境にも対応しています。これにより、スタジオやイベント会場などで、複数のカメラを一元的に管理・操作することが可能です。
Canonの業務用ビデオカメラの多くがXCプロトコルをサポートしており、同社製のリモートコントロールパネルやソフトウェアと組み合わせることで、効率的なカメラコントロールシステムを構築できます。
XCプロトコルは、放送業界やイベント制作などのプロフェッショナルな現場で広く使用されており、Canon製のカメラを使用する環境では重要な役割を果たしています。
メーカー別リモートカメラの特徴と実装方法
SONYのリモートカメラシステム
SONYは放送用リモートカメラの分野でトップシェアを誇ります。
主力製品の特徴:
- BRCシリーズ:4K対応モデルも充実
- SRGシリーズ:コストパフォーマンスに優れる
- VISCAコマンドの完全実装
- PoE+対応で配線も簡単
Panasonicのアプローチ
Panasonicは独自の制御システムとVISCAの両立を実現しています。
特徴的な機能:
- PTZシリーズでの豊富な製品展開
- 独自プロトコルによる高度な制御
- VISCAコマンドのサブセット実装
- IPストリーミング機能の充実
Canonのリモートカメラ展開
Canonは光学技術を活かした高画質モデルを展開しています。
XCプロトコルという独自のプロトコルを実装しているが、標準プロトコルという名称でVISCAコマンドに対応している。
主なポイント:
- CR/CRシリーズの充実
- 優れたAF性能
- 標準的なVISCA実装(一部機種のみ)
- 4K/60p対応モデルの拡充
JVCのIP対応
JVCは早くからIP化に注力してきました。
特徴:
- KYシリーズでの実績
- VISCA over IPの標準採用
- NDI|HX対応
- リモート制作への対応強化
OBSBOTの新しい取り組み
民生機メーカーながら、プロ用途での採用も増えています。
注目ポイント:
- AIによる自動追尾機能
- コンパクトな筐体設計
- 基本的なVISCA対応
- 価格競争力の高さ
カメラコントロールの実装方法
VISCAコマンドの基本
基本的なVISCAコマンド体系を理解することで、異なるメーカーの機器でも統一的な制御が可能になります。
主要コマンド例:
Pan/Tilt制御:8x 01 06 01 VV WW YY ZZ FF
Zoom制御:8x 01 04 07 00 FF
プリセット呼び出し:8x 01 04 3F 02 0p FF
実装時の注意点
通信速度の設定
- 標準は9600bps
- 機種により38400bpsなども選択可能
アドレス設定
- 1台目は通常アドレス1
- デイジーチェーン接続時は重複注意
エラー処理
- タイムアウト処理の実装
- 再送信ロジックの考慮
今後の展望
IP化の進展
- VISCA over IPの普及
- NDI対応の拡大
- 低遅延制御の実現
AI技術との融合
- 自動追尾機能の高度化
- シーン認識による自動制御
- ジェスチャー認識による操作
標準化の動き
- 相互運用性の向上
- 新しい制御プロトコルの登場
- クラウド連携の標準化
まとめ
リモートカメラのプロトコルは、放送機器の中でも特に重要な要素となっています。VISCAを中心とした標準化により、異なるメーカーの機器でも統一的な制御が可能になっていますが、各社の特徴を理解し、用途に応じた選定が重要です。
特に注目すべき点:
- VISCAプロトコルの理解
- 各社の特徴的な実装
- IP化への対応
- 将来の拡張性
今後も技術革新は続き、より使いやすく、より高度なリモートカメラシステムが登場することでしょう。
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