「カメラのマイク端子に挿しているのに、なぜか音が小さい」「音量(ゲイン)を上げるとサーというノイズが乗る」——これはマイクの問題ではなく、カメラ内蔵のマイクプリアンプの性能限界であることがほとんどです。
マイクの種類はマイクの種類と選び方、接続方法はXLRケーブルとマイクの接続方法で解説しました。この記事ではその先にある録音機側の選び方を整理します。
結論:決める順番は「ch数 → 32bit float → タイムコード」
| 順番 | 問い | 影響 |
|---|---|---|
| 1 | 同時に何本のマイクを録るか | 機種の価格帯がほぼ決まる |
| 2 | 失敗が許されない収録か | 32bit float対応の要否 |
| 3 | カメラと別録りするか | タイムコード機能の要否 |
| 4 | どんなマイクを使うか | プリアンプの質とファンタム電源 |
1. チャンネル数:「入力数」と「記録トラック数」は別物
カタログの「4ch」が何を指しているかは機種によって違います。
- 入力チャンネル数:物理的に挿せるマイクの本数
- 記録トラック数:ファイルとして残せる系統の数
- ISO録音(個別トラック録音):各マイクを混ぜずに別トラックで残す機能。編集で1人ずつ調整できる
- ミックストラック:現場でバランスを取った混合音。確認用・保険用
複数人のインタビューや対談では、ISO録音があるかどうかで編集の自由度がまったく変わります。現場で混ぜてしまうと、後から片方だけ音量を下げることができません。「2ch録音」とだけ書かれた安価な機種を選ぶ前に、ここを確認してください。
2. 32bit float録音:何ができて、何ができないか
従来の録音で起きていた問題
24bit録音では、収録前にゲインを適正な位置に合わせる必要がありました。低すぎればノイズに埋もれ、高すぎればクリップ(音割れ)して二度と復元できません。突発的な大声や爆発音は事前に予測できないため、ここは録音技師の腕と勘に依存する領域でした。
32bit floatが変えたこと
多くの機種はゲインの異なる2系統のAD変換回路(デュアルADC)を持ち、小さい音は高ゲイン側、大きい音は低ゲイン側から取り込んで1つのファイルにまとめます。記録形式が32bitの浮動小数点なので極めて広いダイナミックレンジを保持でき、編集時に持ち上げても下げても破綻しにくいのが利点です。
ただし万能ではありません。マイク自体やプリアンプの入口で歪んだ音は救えません。マイクの許容入力音圧を超える音源に近づけすぎれば、32bit floatでも歪みます。「ゲインを気にしなくていい」であって「何も考えなくていい」ではありません。
ファイルサイズは24bitより大きくなるため、収録メディアの容量計算も併せて見直してください。
3. タイムコード:別録りするなら投資に見合う
音声をカメラとは別の機材で録る「別録り」では、編集時に映像と音を合わせる必要があります。手作業で波形を目視合わせしていると、カット数が増えるほど時間を溶かします。
- 内部タイムコードジェネレーター:機材が自分で時刻情報を刻む
- LTC入出力:他の機材とタイムコードをやり取りする端子
- ジャム同期:一度接続して時計を合わせ、以降はケーブルなしで運用する。撮影が長時間になるほどドリフト(ずれ)の精度が効いてくる
編集ソフト側でタイムコードによる自動同期ができれば、数十カットの整理が数分で終わります。マルチカメラ収録が定期的にあるなら、ここは価格差以上のリターンがあります。
4. プリアンプとファンタム電源
EIN(等価入力ノイズ)を見る
プリアンプの静けさを表す指標で、マイナスの値が大きいほど(数値が小さいほど)ノイズが少ないことを意味します。ガンマイクは出力が小さくゲインを大きく稼ぐ必要があるため、ここが弱い機種だと「サー」というヒスノイズが常に乗ります。
ガンマイクの特性はガンマイクとは、指向性の考え方はマイクの指向性で解説しています。
ファンタム電源(+48V)
- コンデンサーマイクの駆動に必要。ダイナミックマイクには不要
- 全chに同時供給できるかを確認する。「+48V対応」でも同時使用に制限がある機種がある
- ファンタム供給中はバッテリー消費が跳ね上がる。長時間収録では電源計画に含める
5. 形態と電源
| 形態 | 向いている現場 | 特徴 |
|---|---|---|
| ポータブルレコーダー | 1〜2人のインタビュー、Vlog | 軽量。内蔵マイク付きも多い |
| カメラマウント型ミキサー | 1人オペレーション | カメラ上に載せて一体運用できる |
| バッグ用ミキサーレコーダー | ドラマ、ドキュメンタリー | 多ch・高音質。録音部が肩に掛けて運用 |
電源は単三電池が使える機種が海外ロケで強いという点を覚えておいてください。専用リチウムバッテリーは空輸規制やコンセント事情に左右されますが、乾電池は現地で調達できます。
忘れられがちだが決定的に重要なもの
モニターヘッドホンです。どれだけ良いレコーダーを買っても、収録中に音を聴いていなければ意味がありません。風切り音、衣擦れ、空調のノイズ、ケーブルの接触不良——これらはその場で聴いていれば全部気づけるのに、後からは直せない問題です。
密閉型で、装着したまま数時間耐えられるものを選んでください。ヘッドホンを省いたせいで数十万円の収録が使い物にならなくなる——現場で最も高くつく節約です。長時間の装着を前提に、耳が痛くならないものを選ぶことも重要です。
予算別の考え方
- 〜3万円:2ch、XLR入力付きポータブルレコーダー。インタビュー1〜2人ならここで足りる
- 5〜15万円:4〜6ch、32bit float、ISO録音。ここが業務の実用ライン
- 20万円〜:8ch以上、タイムコード、高品位プリアンプ。ドラマ・多人数収録向け
まとめ
録音機は「同時に何本録るか」でほぼ機種が決まります。そのうえで、失敗が許されない一発撮りなら32bit float、別録りするならタイムコード、ガンマイク中心ならプリアンプの質——と条件を足していけば、迷う余地はほとんど残りません。
そして風防とヘッドホンを忘れないでください。この2つは、レコーダーの価格差より収録結果を左右します。

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