安いLEDライトで撮ったら画面に横縞が流れた。蛍光灯の下でスローモーションを撮ったら映像全体が明滅した。撮影現場で誰もが一度は踏む地雷です。
フリッカーの「原理」については当サイトでもデューティー比(デューティーサイクル)とLEDフリッカーとはで解説してきました。この記事はその続編として、「では、どのライトを買えばフリッカーを避けられるのか」「買ってしまったライトでどう設定すれば止まるのか」を実務目線でまとめます。
結論:フリッカー対策は「機材選び7割・設定3割」
先に全体像を示します。
| レイヤー | やること | 効き目 |
|---|---|---|
| 機材 | DC(リニア)調光、または高周波PWMのライトを選ぶ | ◎ 根本解決 |
| 機材 | 調光周波数を任意設定できる機種を選ぶ | ◎ ハイスピード撮影にも対応 |
| 設定 | シャッタースピードを電源周波数に合わせる | ○ 環境光にのみ有効 |
| 設定 | フレームレートを合わせる | △ 演出上の制約が出る |
ポイントは、シャッタースピードで対処できるのは「その場にもとからある光」だけだということです。自分で持ち込むライトのフリッカーは、買った時点でほぼ勝負がついています。だからこそ選び方が重要になります。
なぜLEDはちらつくのか:PWM調光とデューティー比
LEDは流す電流を絞ると発光効率と色度が変化してしまいます。そのため多くの照明機材は、電流値ではなく点灯と消灯を高速で切り替える時間の比率で明るさを制御しています。これがPWM(Pulse Width Modulation/パルス幅変調)調光で、1周期のうちONになっている時間の割合がデューティー比です。
デューティー比50%なら、人間の目には「半分の明るさで連続点灯している」ように見えます。残像で平均化されるからです。ところがカメラの目は違います。
- ローリングシャッターのCMOSは画面を上から順に読み出すため、読み出し中に光がON/OFFすると明暗が横縞(バンディング)として焼き付く
- 1フレームの露光時間に含まれるON回数がフレームごとに揃わないと、フレーム全体の明るさが波打つ
- ハイスピード撮影では露光時間が極端に短くなるため、普段は問題ないライトでも破綻する
つまりPWM周波数が露光時間に対して十分に高くないと破綻します。デューティー比という概念そのものの解説はこちらの記事を参照してください。
ライト選びで見るべき4つのスペック
1. 調光方式(DC調光かPWMか)
DC調光(リニア調光/定電流調光)は電流量そのものを変える方式で、原理的に明滅しません。フリッカーの心配が最も少ない反面、低照度側で色温度がわずかに転ぶ機種があります。
PWM調光は色度が安定する代わりに明滅が前提です。上位機は低照度域はPWM、高照度域はDCといったハイブリッド制御を採用しています。仕様書に「Flicker-free at any dimming level」といった記述があるかを確認してください。
2. PWM周波数の数値が公開されているか
ここが最重要です。「フリッカーフリー」という表記に業界統一の定義はありません。数百Hzの製品も「フリッカーフリー」を名乗れてしまいます。
- 周波数が数値で明記されていない製品は、通常撮影は通っても高速シャッターで破綻すると考えておく
- 数kHz以上あれば一般的な動画撮影では実用上問題になりにくい
- ハイスピード(240fps以上)を撮るなら、周波数の実測値かメーカー保証のフレームレート上限を確認する
3. 調光周波数を任意に変えられるか
業務機の多くは、メニューからPWM周波数を選択できます。撮影するフレームレートやシャッター速度に対して「割り切れる」周波数を選ぶことで縞を消せるためです。海外ロケや、他社の照明が混在する現場では、この機能の有無が決定的な差になります。
4. 演色性(CRI / TLCI / SSI)
フリッカーとは別の軸ですが、「安いライトで失敗する」もう一つの原因です。目安としてCRI Ra95以上、動画用途ではTLCI 95以上を確認してください。肌が濁る/赤が沈むといった不満の多くはここが原因です。色温度そのものの考え方は色温度とミレッド値の関係性で解説しています。
環境光は設定でしのぐ:シャッタースピードの合わせ方
ロケ先の蛍光灯、看板、街灯は交換できません。これらは商用電源で駆動されているため、電源周波数の2倍の周期で明滅します(交流は1周期に2回ピークが来るため)。
| 地域 | 電源周波数 | 光の脈動 | 安全なシャッター速度 |
|---|---|---|---|
| 東日本 | 50Hz | 100Hz | 1/50秒、1/100秒 |
| 西日本 | 60Hz | 120Hz | 1/60秒、1/120秒 |
シャッター角度で設定するシネマカメラの場合は、以下の換算になります。
- 24fps・172.8° → 1/50秒相当(50Hz地域向け)
- 30fps・180° → 1/60秒(60Hz地域向け)
- 25fps・180° → 1/50秒(50Hz/PAL圏向け)
シャッター角度とシャッター速度の関係は「シャッター速度 = 1 ÷ (fps × 360 ÷ 角度)」で求められます。海外ロケでは電源周波数と放送方式がセットで効いてくるので、NTSCとPAL、NTSCとPALの設定変更方法、世界の地デジ放送方式もあわせて確認しておくと安全です。
注意:シャッターで合わせられるのは商用電源で動く光だけです。バッテリー駆動のLEDや、内部でPWM周波数が中途半端に設定された機材は、シャッターをいくら合わせても縞が消えません。この場合はライト側の周波数設定を変えるしかありません。
用途別・予算別の選び方
インタビュー・宅録・YouTube(〜2万円)
被写体との距離が近く、常用シャッターは1/50〜1/60秒。ここでは出力より演色性とPWM周波数の明記を優先してください。パネルライトかコンパクトなCOBライト+ソフトボックスが定番です。
小規模ロケ・物撮り(2〜8万円)
100W〜200WクラスのCOBライト。屋外での逆光に負けない出力と、バッテリー運用(Vマウント/NP-F)の可否がポイントです。この価格帯から調光周波数を選べる機種が増えてきます。
スタジオ・ハイスピード(10万円〜)
300W級以上。ここまで来ると本体価格に加えてスタンド、ソフトボックス、バッテリー、ケースが必要になり、総額は本体の1.5〜2倍になります。LED照明機材とはで機材の分類を整理しているので、そちらもあわせてどうぞ。
高出力機は「買う前に1日借りる」のが安全
フリッカーの有無は、カタログではなく自分のカメラとシャッター設定の組み合わせでしか確定しません。10万円を超える照明を導入する前に、同型機を1日レンタルして自分のカメラで実写確認するのが最も確実で、最も安く済みます。
考え方はジンバル・ドローンは「買う前に一度借りる」べき5つの理由、損得計算はカメラはレンタルと購入どっちが得?にまとめています。
購入前チェックリスト
- 調光周波数(Hz/kHz)が仕様表に数値で書かれているか
- 調光方式(DC/PWM/ハイブリッド)が明記されているか
- 調光周波数をメニューから変更できるか
- CRI Ra95以上/TLCI 95以上か
- 低照度域(1〜10%)でも色温度が転ばないか
- バッテリー規格が手持ちの資産と揃うか
- スタンド・ソフトボックス込みの総額で予算に収まるか
まとめ
フリッカーは「安いライトを買ってしまった時点」で大半が決まります。カタログの「フリッカーフリー」という言葉ではなく、調光方式と調光周波数の数値を見て選んでください。そして持ち込み照明のフリッカーはシャッターでは消せない、環境光のフリッカーはシャッターで消せる——この切り分けができれば、現場で慌てることはなくなります。
関連記事:デューティー比とは/LEDフリッカーとは/LED照明機材とは/色温度とミレッド値

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